陰部神経(pudendal nerve)は会陰部の体性運動・感覚を一手に担う仙骨神経叢の枝です。骨盤底の「随意的コントロール」の主役、と捉えると整理しやすいです。
1. 起始と線維構成
S2〜S4前枝から起こります(主体はS3)。
体性運動・体性感覚線維が主体で、汗腺や血管を支配する交感神経節後線維も混じります。
骨盤内臓神経(S2〜S4の副交感)とは別系統です。膀胱排尿筋や勃起の血管反応は骨盤内臓神経が担い、陰部神経は横紋筋側を担当します。
2. 走行
走行の特徴は、骨盤外へ一度出てから会陰へ戻ってくる点です。
梨状筋下孔(大坐骨孔)から骨盤外の殿部へ出る
坐骨棘・仙棘靱帯の背側を回り込む
小坐骨孔から再び会陰側へ入る
内閉鎖筋の筋膜がつくる陰部神経管(Alcock管)の中を、内陰部動静脈と一緒に前方へ走る
3. 主な枝
下直腸神経
外肛門括約筋(運動神経)と肛門周辺の皮膚(感覚神経)
会陰神経
外尿道括約筋、球海綿体筋、坐骨海綿体筋、浅会陰横筋(運動神経)と陰嚢または大陰唇の後部(感覚神経)
陰茎背神経/陰核背神経
陰茎・陰核(感覚神経)
肛門挙筋は主に仙骨神経からの直接枝が支配するため、陰部神経の支配はありません(一部関与する説もあります)。
機能のポイント
排尿・排便の「我慢」
外尿道括約筋と外肛門括約筋を随意的に収縮させます。
性機能
射精時の球海綿体筋の律動的な収縮と、性器からの感覚入力を担います。
臨床で問題になるところ
陰部神経痛(絞扼性障害)
絞扼が起きやすいのは2か所で、最も多いのは仙棘靱帯と仙結節靱帯の間(坐骨棘の部位)、次がAlcock管です。診断にはNantes基準が使われます。
- 痛みが陰部神経の支配領域にある
- 座っていると悪化する
- 痛みで夜中に目が覚めることはない
- 他覚的な感覚脱失がない
- 陰部神経ブロックで痛みが軽くなる
陰部神経痛は、座っているときに多いです。原因は姿勢変化にによる陰部神経の圧迫です。ただし、デリケートな部分になるので、不安や恐怖を増強する大脳辺縁系の働きで慢性化するようなります。
こうしたケースでは、局所の神経を治療するとともに、不安をあおる脳神経の緊張も治療しなければなりません。神経の記憶が長引くほど、痛みも慢性化することが多いです。
主な原因
自転車などによる長時間の座位圧迫、経腟分娩時の牽引損傷(産後の腹圧性尿失禁や便失禁の一因)、骨盤手術。
鍼灸治療
陰部神経刺鍼
会陽穴の付近(尾骨下端の外側)から坐骨直腸窩へ向けて深く刺入し、肛門や会陰部に響きを得る方法です。明治国際医療大学のグループが、過活動膀胱、慢性前立腺炎(CPPS)、腹圧性尿失禁などへの応用を報告しています。
中髎・次髎
後仙骨孔を通じてS2〜S3の神経根レベルに作用するもので、仙骨神経刺激療法と同じ発想です。陰部神経刺鍼が末梢枝を直接狙うのに対し、こちらは根元を狙うという違いになります。