「中高年女性が座ると大陰唇が痛い」という訴えは、陰部神経痛が多いのは確かですが、陰部神経が原因でなく、足の神経が原因のことも多いです。
1. まず大陰唇の神経支配を押さえる
大陰唇は1本の神経ではなく、3系統の神経が分担して支配しています。神経系統を丁寧に治療することで、陰部の痛みを改善することができます。
前部・恥丘
腸骨鼠径神経・陰部大腿神経(L1)この神経が原因の場合、座っていても痛みはほぼ変わりません。
後部・内側
陰部神経(会陰神経の後陰唇枝)が原因です。座っていると痛みが悪化します。
外側部
後大腿皮神経の会陰枝(S1〜S3)が原因です。座っていると痛みが悪化いします。
会陰部痛で多いのが腰のすべり症やヘルニアが原因の後大腿神経痛です。後大腿皮神経の会陰枝は大殿筋の下縁から出て、坐骨結節のすぐ近くを回り込んで大陰唇の外側へ向かいます。そのため坐骨結節に体重が乗ると直接圧迫されます。痛みが大陰唇の外側に限られ、陰核や肛門まで広がらない場合は、陰部神経よりこちらを疑います。
2. なぜ中高年女性に多いのか
仕組みから考えると、要因は主に4つです。
会陰下垂による牽引
出産歴や閉経後の骨盤底の弱化で会陰が下がると、陰部神経は坐骨棘を支点に引き伸ばされます。陰部神経の走行は長く固定点が多いため、伸張による神経障害を起こしやすい構造です。慢性便秘でいきむ習慣があると、この牽引が毎日繰り返されます。
クッションの減少
加齢や体重減少で坐骨直腸窩の脂肪や殿部の軟部組織が薄くなり、座った時の圧が神経に伝わりやすくなります。
エストロゲン低下
外陰部の組織が萎縮し(閉経関連泌尿生殖器症候群、GSM)、皮膚と粘膜そのものが痛みや刺激に弱くなります。神経そのものの障害ではありませんが、痛みの訴えは似ています。
骨盤底筋の過緊張
内閉鎖筋や肛門挙筋の過緊張やトリガーポイントによって、二次的に絞扼が起こったり関連痛が出たりします。これが痛みの悪循環に入ると、中枢感作も加わります。
3. 陰部神経痛の診断基準(Nantes基準)
必須の5項目
- 痛みが陰部神経の支配領域にある
- 座っていると悪化する
- 痛みで夜中に目が覚めることはない
- 他覚的な感覚脱失がない
- 陰部神経ブロックで痛みが軽くなる
補助的な所見
- 灼けるような、刺すような痛み、またはしびれ
- 触れただけで痛む(アロディニア)
- 腟や直腸に異物があるような感覚
- 夕方に向かって悪化する
- 片側性が多い
- 排便後に悪化する
- 坐骨棘に圧痛がある
除外の手がかり
以下の症状がる場合は、陰部神経痛とは別の疾患の可能性が高いです。
かゆみがある場合は除外です。かゆみが主体なら、硬化性苔癬、GSM、カンジダなど皮膚科・婦人科の疾患を考えます。
尾骨部だけ、殿部だけ、下腹部だけの痛み。
中高年の女性で特に重要な鑑別疾患
GSM(萎縮性外陰腟炎)
非常に多い疾患です。性交痛、乾燥感、排尿時のしみる感じを伴います。婦人科で腟用エストリオールを使うと、それだけで痛みが消える例があります。
硬化性苔癬
外陰部が白くなり、かゆみがあります。外陰癌のリスクがあるので、必ず皮膚科か婦人科へつなぎます。
Tarlov嚢胞(仙骨の神経根周囲の嚢胞)
中年女性に多く、S2〜S3の神経根が圧迫されて同様の症状が出ます。座位や立位で悪化します。仙骨のMRIでしか分からないため、通常の腰椎MRIでは撮像範囲から外れて見逃されることがあります。
馬尾・円錐部の病変、腰部脊柱管狭窄
膀胱直腸障害やサドル型の感覚低下があれば至急受診が必要です。
4.治療
痛みの原因になっている神経は、お尻の奥の、骨と靭帯のすき間を通っています。当院では、その神経が締め付けられている場所や、周りで硬くこわばっている筋肉に向けて鍼をします。お尻の深い所に届く鍼を使うため、治療中に陰部やお尻の周りに響く感覚が出ることがあります。これは鍼が狙った所に届いている合図ですが、つらい時は遠慮なくお声がけください。